●文部科学省編集の生涯学習総合情報誌「マナビィ」10月号に表紙&インタビューが掲載されました。以下、インタビュー全文掲載↓
落語の宅配承ります!
アマチュア落語家でありながらも、常に芸の道を極めるための努力を惜しまない立川志隆さん。依頼を受けたらどこでも音楽と落語の会を開催してみんなの心を和ませる。そんな志隆さんの熱い思いとは…。

〜談志師匠の芸に憧れて入門してしまいました〜
【小学校高学年のころから落語に興味を持たれたということですが、きっかけは何だったのでしょうか?】
 両親が家で仕事をしていて、一日中ラジオがかかっていました。小学校から帰ってくる時間がちょうど寄席とか落語の番組で、聞くともなしに聞いていたのが、今になって考えるときっかけだったのでしょうね。段々と好きな落語家さんが出てきて、この話面白いなあとかね。決定的になったのは、クリスマスプレゼントのラジカセに落語を録音して繰り返し聞いたことからです。
【談志師匠に師事されたのは、やはり師匠の芸に憧れたからでしょうか?】
 そうですね、その都度好きになる方をいろいろ巡った中で、最後にたどり着いたのが談志師匠でした。やっぱりすごい。並じゃないですよ。当時、ちょうど談志師匠が「あなたも落語家になれる」という本を出されていました。それを読んだら素人でも入門できる、名前をもらえるとあったんです。それを読んでじゃあっていうので入門をお願いしました。
【「立川志隆の会」では、様々な方を対象にされていますが、例えば子どもたちに対する「落語」では、どのように話の中に引き込んでいかれるのでしょうか?】
 いきなり落語で集中させようとすると、かなり難しいでしょうね。ただ、その前に音楽をやってコミュニケーションを取っていますので、落語にすごく入りやすいんです。わりとすっと入っちゃうんですね。
【一人暮らしや寝たきりのお年寄りを相手に落語をされて、落語のリフレッシュ効果を実感されたことはないですか?】
 後で施設の方から、普段むっつりして全然何もしない人が落語を聞いて笑っていたり、日本の歌を歌っててびっくりしたとかいうお話を伺います。痴呆の方ではほとんど反応のないこともあるんですが、よく見ていると目が動いていたり、口がなんとなく動いていたりとか、そういう反応が見えてきます。難しい理屈は分かりませんが、笑うことは健康にはとても良いことだと思っています。
【ところで、今後、プロの落語家を目指すつもりはないのでしょうか?】
 現在、談志師匠の弟子で若手真打ちの立川志らく師匠が主催する、素人向けの落語塾「らく塾」で志らく師匠に稽古をつけていただいています。少しでも良い落語を聞いて欲しいと思い、昨年の秋から入門したのですが、稽古を受ければ受けるほど、ひとつひとつの話に対する情熱、分析、表現など感心することばかりです。十歳若かったら、入門を考えたかもしれませんが、今は年齢的にも、実力的にもそれは難しいと思います。それに現状では素人だからこそ、自由にできるのであって、プロになれば自分でこういう仕事を選べません。そもそも始めた主旨というのが、予算がそれほどなくてもお年寄りや子どもたちに生の落語を聞かせたい、音楽を聴かせたい、とにかく親しんでもらって興味を持ってもらいたいということなんです。もうしばらく行けるとこまで行こうと。現段階でプロになる気はまったくないです。アマチュアでも自由にやらしてもらえて、それが落語のためになればいいですよね。素人でも落語にかかわる方法はあるということを実践したいですね。
〜自己満足よりもお客の興味を大事にしたい〜
【立川志隆さんの生の落語を聞いて一人でも二人でも落語ファンが増えるといいですね。次に音楽のことをお伺いしたいのですが、中学生のころはフォーク・シンガーを目指されたんですか?】
 当時はニューミュージックの走りみたいなもんですが、自分で詩を書いて曲を作って歌うことに憧れて、高校を卒業してから音楽と芝居の専門学校へ入学しました。でもそこは音楽科の応募人数が少なくて学科として成り立たなかったんです。それで一年間芝居をやって、二年目に音楽科へ異動しました。そこにギターの先生の授業がありました。生のギターの演奏を目の前で見てこれはすごいと。アコースティックの生の音が好きだったものですから、この先生には卒業してからもずっと師事しています。
【音楽は演奏者が考える以上にリスナーに充足感を与えると思いますが、音楽の効用について、実践者の立場から意見をいただきたいのですが?】
 先生にも、本番っていうのは何がおこるかわからない、練習でやっているときの七割から八割ぐらいの演奏ができればもう十分だってよく言われました。まさしくそのとおりで、一回一回もう反省することばかりですが、おもしろいのはこっちの満足度と聞いて下さる方の満足度が一致するわけじゃないこと。ああ今日はぜんぜんダメだったなあと思っても、すごくいい演奏でしたと誉められることもある。もう今日は完璧だと思ってもあまり誉められないこともある。いくらこっちが満足しても聞いて下さる方が楽しんだり、満足できなければそれは失敗じゃないかなと思ってます。いかに聞いて下さる方に楽しんでもらえるか、あるいはギターに興味を持ってもらえるかですよね。いくら難しい曲をうまく弾いても聴いて下さる方の感動につながらなければ意味はないでしょう。全然興味がなかったり、初めての人に興味を持ってもらうための活動をするものがいてもいいんじゃないかなと思います。
【先ほどのフルートの演奏で最後に「故郷」を演奏されましたが、プログラムはご自分で構成されているのですか?】
 大体、季節に応じて日本の曲は私の方で選んで順番を付けています。まあ自分の好みですね。
【歌詞カードになかなか素敵なイラストがありますね?】
 最初にフルートで演奏していたんですが、会場を見るとみんな小さな声で歌っているんですね。それじゃあみんなで一緒に歌おうと。歌詞カードも文字だけだと寂しいのでイラストを入れようということになりました。でもなかなか歌にぴったりあったイラストがないんですよ。そこでうちの奥さんに書いてもらいました。
【立川志隆さんの活動も奥様のご理解・ご協力がないと難しいと思います】
 こんなに亭主を甘やかしている女房は他にはいないでしょうね。今の生活は支えがなければ決して成立しないですし、そんな環境を与えてくれている家族には本当に感謝しています。できる限りこの会を広げていって、家族を安心させることができるようになればいいと願っています。
〜音楽と落語の「宅配便」としてお役に立ちたいですね〜
【立川志隆さんにとっての生涯学習について具体的なイメージをお聞かせ下さい?】
 我々は絵や写真と違って形に残りません。本当にその場の刹那的なものなのでこれで終わりというものはないんです。これ以上ないという演奏ができたとしても、次の瞬間にもっとそれ以上の演奏ができる可能性があるし、下手になっちゃうかもしれない。可能性としては終わりがないので、その意味では一回一回の演奏が勝負です。満足することは一生ないと思います。演奏も落語もそうだと思います。生涯にわたって可能性の追求できるものに巡り会えたことは、とても幸せなことです。
【日本全国いたる所に、落語ファン、音楽ファンはいます。また、地理的条件でライブを堪能できないファン候補もたくさんいると思います。そのような方々のためにも、是非「立川志隆の会」を続けられて、老若男女を問わず魅了し、生涯学習の振興に一役も二役も買っていただければと思います。それでは今後の抱負をいただけますか?】
 自分のできることをできる限りやって、結果的にどこかのお役に立てたり、笑いを与えられればいいかなと思っています。今は宅配便だと思っていますので、依頼のあったところには都合のつく限り、どこへでもいくことにしています。今、特にやりたいのは、子どもたちのための音楽と落語の会、寝たきりの方などへの個人宅での会です。是非気軽に声をかけていただきたいですね。
【インタビューを終えて】
 志隆さんがこの道に興味を持ったのは、談志師匠、泉谷しげるさんに憧れたから。好きなことを続けられる幸せを感謝し、生涯をかけて学んでいきたいと照れながらも優しい目を輝かせて語っていただきました。落語で磨かれた話芸が音楽の部にも活き、心地よい旋律の余韻の中で古典落語を楽しむ。志隆さんのギターとフルートの伴奏で「故郷」を参加者の皆さんと合唱した時には、それぞれの田舎の山川が集会室に満ちあふれてきて、あえてアマチュアにこだわりたいと明言する方向性はこれなのかなと納得し、その熱演に拍手を送りました。

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